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どうやら私はつい数日前に出産し、先日退院したようで、私の家(見覚えなし)で友人主催のパーティーの最中。テーブルの上にはシャンパングラスや大皿にのった簡単な食事、紙皿にはケーキなんかが、チェック柄のクロスの上に置かれていて、天井にはピンクやラベンダー色とかの甘ったるい色をした、ハートや星の形の風船が浮いている。 そして私が産んだ子供はというと、15センチくらいの大きさしかなく、ビーカーのような目盛のついたガラスの容器の中で、淡い水色の糸で編まれた服と帽子に包まれ、縦に固定されて眠っている。 毒にも薬にもならないような音楽のなかで、人々は親しげな様子で話しかけてくるけれど、私はどの顔にも覚えがない。それでも皆、私のために集まってくれたのだから、と思って一応笑顔を作ってみる。机の向こうでグラスを片手に、やはり手持ち無沙汰にしている男性があの人だって気付く。 あぁ、彼も来てくれていたんだ。 パーティ−はお開き。テーブルの上には汚れた食器と口紅のついたグラス。 部屋には彼と、私と、ビーカーの中の小さな赤ちゃん。恐らくその父親は誰でもなくって、私がひとりで妊娠し(処女懐胎みたいな?)、またひとりで産んだのだけれど、それはこの世界ではそんなに不思議なことでもないみたい。だけどそれと彼とのことは別。少なくともその子の父親は彼ではない。私は床に膝をついて、カウチに座った彼の背中に手を回し頬をつける。荒く編まれたセーターが頬をちくちくと刺して、秋の公園の落ち葉みたいな彼の匂いが懐かしくって胸が痛む。 彼は何かを言おうとして口を開けるけど、それが私の聞きたい言葉じゃないことはふたりともわかっている。言うならば、我々はタイミングを逃したのだ。お互いがお互いをしっかりと捕まえていなくてはいけなかったのに、それを後回しにして相手を顧みなかったのだ。だって私たちはまだそのとき十分に若く、十分に美しく、そして愚かだったので、互いが求めさえすればいつだって手に入ると信じていたから。 見上げると、彼が片方の手にビーカーを抱いている。なかのひとは私の気持ちも知らずに眠っている。この子がいるからふたりが一緒になれない訳じゃなくて、むしろふたりの、もしかしたらあったかもしれない失われた可能性の象徴であるから、これを恨むこともできない。 彼の膝の上で、冷たいガラスの質感を感じて、この瞬間が永遠に続けばいいのになんて考える。いつ彼は袖の下の秒針を確認し、私の手を優しく解いてカウチを離れてしまうのだろう。扉の前で申し訳なさそうに微笑んで、小さく手を振るのだろう。そうしたら、この他人の手で散らかったリビングでビーカーのなかのひととふたりきり、私はどうすればいい?そもそも、こんな小さい赤ん坊に何を食べさせればいいのかさえ分からないのに。 (第二夜) わたしはわたしの部屋にいて、それは三階建てのれんが造り(赤ではなくて黒)の洒落た建物の中にある。目覚ましの音を聞きながらベッドから出るのをしぶっている。そこへ大きな音を立てて招かざる客が階段を上って玄関のドアをたたき、同居人が応対する声と私の名前を呼ぶ声が聞こえ、上はよれよれのTシャツ、下は洗濯のし過ぎで短くなってしまったボーダー柄のスウェット、とりあえずそこらにあったもので髪を結わえてみるけれど、パーマをかけたばかりの髪は、秩序なく波打ってそれぞれが好きな方向へととびだしている。いや、そんなことはどうでもいい。彼女がきた。 すぐに逃げなければと思って、眼鏡をかけて裏口のビーチサンダルを引っ掛けて外へ出る。音を立てないように、鉄の階段を降りると外は極寒、何で私はこんな季節にパジャマのままハワイアナスをひっかけて駅まで走らないといけないんだ?開けられた窓からは、彼女の弾んだ声が聞こえる。 「○○ちゃんはどこ?」 「早く○○ちゃんを出して。」 「あの子、そういうとこあるからー。」 「わかってる、本当は嫌じゃないって。」 目を細めて口角を上げた彼女の表情が目に浮かぶ。その顔は何故こんなにも私に恐怖を抱かせるのか?それがせめて怒った顔であれば、泣きながら懇願してくれればこんなにも恐ろしくはないのに。彼女は笑顔と、明るい声で私を責め、どこまでも追いつめる。いったい私が何をしたって言うの? 早く、早く、早く彼女の手の届かないところまで行かなくちゃ。 同居人が時間稼ぎをしてくれているはずだ。私は切符も買わないまま(着の身着のまま出たので、財布さえ持っていない)改札を抜け、地下鉄のホームへと下りる。通勤途中のスーツを着た人々は、私の格好とぼさぼさの髪をみて不審そうな顔をするけれど、すぐに目をそらしてまた虚空を見つめる。わたしはホームに滑り込んできた列車に行き先もわからないまま乗車する。彼女の気配がすぐ背後に追ってきている。 「本当は捕まえて欲しいんでしょ?」 起きたての回らない頭で、手元には一銭だってない。ポケットを裏返してみても、中にあるのは洗濯ほこりくらい。彼女は強い、彼女の世界で彼女は正しい。どれだけ吸っても酸素が肺まで届かない。この世界の上で私に勝ち目なんてないのかもしれない。それでもいまはどこか遠くへ逃げなくては。全速力で、かつ慎重に、一度でも転べば彼女に飲み込まれる。 「あれ?○○ちゃんじゃない?」 顔を上げると学生のときの同級生ふたりが、驚いた顔でこちらを見ている。 「どうしたのそんな格好で。顔が真っ青だよ?」 ひとりはフォックスファー、もう一人はベージュのメルトンのコート、そのどちらもがいかにも暖かく上等そうなので、パジャマ姿の自分がよけい惨めになる。だけど彼女らに出会ったことで少し落ち着きを取り戻すことができた。大丈夫。お願いして、切符代とそこからの交通費を貸してもらおう。家のことは同居人がうまく処理してくれるだろう。暖房の効いた電車の中で、これから自分がすべきことを考える。
by erimeri1204
| 2010-10-25 22:41
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